●第27回関東甲信越JSIC報告 放射線防護と線管理 <塚本篤子>
 <塚本篤子:NTT東日本 関東病院>2005.10.29 コメディカルシンポジウム 「PCIにおける安全管理」


 PCI治療における安全管理について、診療放射線技師の立場から、放射線防護と線管理について述べる。

 PCI時において放射線防護や線管理をすることがなぜ必要かというと、このスライドのような状態を起こさないためである。   
 この写真は、FDA(Food and Drug Administration : 米国食品医薬品局)に報告された皮膚障害の症例である。

  症例は FDA の Thomas B.Shope 博士が Radio graphics とインターネット上に載せている放射線による皮膚障害の症例である。この症例は、40歳の男性で coronary angiography と 2回の PTCA( percutaneous transluminal coronary angioplasty )で皮膚局所に20Gy以上被曝を受けたと考えられている。
  • 上段左は、被曝後約6〜8週間後の皮膚の状態である。
  • その右は、その約16〜21週間経過後で皮膚に潰瘍を形成している。
  • 下段は皮膚壊死・二次性潰瘍となり、外科切除と皮膚移植をおこなった。

 PCIやアブレーションの放射線障害については国際機関である「国際放射線防護委員会:ICRP」からPublication 85 「Avoidance of Radiation Injuries from Medical Interventional Procedures」(IVRにおける放射線傷害の回避)として2000年に刊行されている。

 和訳は日本アイソトープ協会から2003年に刊行された。

 ICRPPubl.85は、IVR手技に関わる診療従事者や医療施設管理者を対象に、患者や診療従事者に対する放射線のリスクを最小限にするために、重篤な影響を生じたIVR手技による傷害の情報を提供し、皮膚と目に対する電離放射線の生物学的影響について解説するとともに、被ばく線量を制御する実際的な措置を記載している。また、患者へのカウンセリング、患者の経過観察、術者の知識と訓練等の必要性などが述べられている。

「放射線
障害」→「放射線傷害
 日本でも、『IVRに伴う放射線皮膚障害の防止に関するガイドライン』が、関連13学会と2オブザーバーによって、2004年秋に発行された。内容は、スライドに示す通りである。

 特に、IVRを実施する前にあらかじめ『管理線量目標値』を決定すること、使用装置の線量率を実際に測定してIVR時の線量把握を容易にすること、日常の装置点検と定期的なメンテナンスの重要性を述べている。

 他に線管理するための測定マニュアルとQ&Aを含んでいる。

 AHA(米国心臓協会)が心カテを行う医師に向けて2004末に発行したもので、ここにも患者さん術者やスタッフの被ばく低減方法や、線管理について記載されている。

 日本では、X線の発生機序や物理特性の理解、放射線機器の管理や線量管理を診療放射線技師が担っているが、ACC/AHAではPCI施行医師が全てを把握して責任を持つことを要望している。

 当院の転院から5年間の診断カテーテル、PCI、アブレーション時の患者さまが受けた線量の平均値の推移を示している。 平均の総線量の推移は、使用している透視パルスレートの15パルス/秒から7.5パルス/秒への変更と、1パルスあたりの線量の変更によって次第に低減している。

 しかし、このように患者さま全体の平均総線量は減っていても、最大の総線量は、2004年、2005年共に約6.Gy(1X線管の最大線量では2004年が3.8Gy、2005年が3.1Gy)と、皮膚障害を起こしてもおかしくない線量を患者さまは、受けている。
 そのため、放射線防護と線管理は、PCI時に大切なことである。

 また、2005年ではPCIの平均総線量が前年よりも大幅に増えており、今後の推移を注意深く見まもると共に、よりいっそうの具体的な被ばく低減策をたてなければいけない。


※ 当院の心カテPCIはバイプレーンで実施しており、総線量はF/Lの2X線管合計
 具体的な患者さまの防護方法を示す。
  • 無駄な透視や撮影をしない
  • I.I.を患者さまに近づける
  • X線管から患者さまを出来るだけ離す
  • 付加フィルタを最適化する
  • 撮影条件を最適化する
  • 低レートパルス透視を採用する
  • 低フレーム撮影を採用する
  • 拡大を多用しない
  • X線装置の品質管理(I.I.は定期的に交換する)
 当院でのデータであるが、X線管−受像器間距離を一定にした時のX線管焦点と患者さま皮膚正面の受ける線量の比率をあらわしたグラフです。

 70cmと一番ベットを上げた状態を1.0とした時の比率で、20cm距離が近ずくと約2倍の線量を患者さまの皮膚表面に受けることを示している。
 これは、幾何学的配置を一定にした時の透視パルスレートの値と、1パルスあたりの入射線量の違いの線量比を示す。
 横軸の3.75 7.5は、透視1秒あたりのパルス数を、+と無印は1パルスあたりの入射線量の設定を示す。

 当院では最初15パルスを採用していたが、アブレーション時のために7.5パルスを使用するようになり、入射線量も、メーカー推奨値より、段階的に下げていった。
 患者さまの皮膚表面の防護を考えると、低パルスレートを使用し、入射線量も下げることが望ましい。

 しかし、それでガイドワイヤーやステントなど、見えにくくなり、透視時間が長くなったり、撮影での確認が増えると、意味がない。そこで、入射線量を下げる場合には、元々の設定を+設定に入れて、術者の意向を聞き段階的に下げていった。

 関東近県の診療放射線技師が中心に活動をしている、循環器画像技術研究会では、スライドのような放射線防護に関係した活動を行っている。

 本研究会が、1999年から行っている『循環器被ばく低減技術セミナー』は、現在、当研究会のような全国の研究会が集まって活動をしている、「全国循環器撮影研究会」に主催がうつり、全国で毎年セミナーが開催されている。

また、PCI時の線量実態を把握するためにスライドに示すワーキンググループを2004年に立ち上げ、関東広域の多施設で線量測定を実施している。

循環器撮影実態調査として5年毎にアンケート調査を実施して4回を数えている。次回は2009年実施の予定である。

さらに、2005年には、前にも示したAHAから出された指針の翻訳を実施し、放齲車線防護に関する資料を提供すると共に啓発に努めている。
 関東近県の25施設で、千代田テクノル社製の測定キットを使用し、PCI時の透視線量を測定した結果を示す。

 各施設のPCI時の条件下で、IVR基準点における表面線量である。最小が1分当たり10mGy、最大が100mGyという結果になり、実に10倍の開きがあった。
 これは、PCI撮影時の線量の測定結果である。最小が1秒間4.2mGy、最大が20.5mGyであり、その較差は5倍であった。

 前に述べてきたとおり、患者さまの放射線防護は重要で、そのための線管理も重要である。しかし、各施設単独での測定では、自施設の線量が適正な線量なのかの判断は困難である。
 多くの施設で、測定することは、自施設の線量を考えるよき指標になると考える。

 当院での取り組みを示す。
  • X線装置の実線量を把握し、診断に影響しない必要最低限の線量設定と出力管理(QC)を実施
  • 患者さまの検査・治療データを記録・保存し、フォローアップに役立てることにより無駄な放射線被ばくを防止
  • 検査目的・患者情報を共有し、目的が最短で達成されるようチームで取り組むことにより、必要最低限の放射線被ばくになる
  • 医療被ばくを低く抑えられれば術者被ばくも低減する。具体的な放射線防護の方法と防護意識の教育が重要

まとめ

 PCI治療時の安全管理のために、診療放射線技師は、検査はもちろんだが患者さまや術者・スタッフの放射線防護を考えている。また、そのための装置や照射しているX線の管理を行っている。

 放射線防護・安全利用は、診療放射線技師だけでは行えない。術者・スタッフへの防護方法の啓発・啓蒙が大切だと考えている。


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